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「多摩人」07・春号(第23号)

人間交響楽
日本各地の「基層文化」を
映像で記録し続ける
記録映画監督姫田忠義さん

取材・文今井友樹
姫田忠義さん
Profile
<姫田 忠義(ひめだ ただよし)>
1928年兵庫県神戸市生まれ。旧制兵庫県立神戸高商(現兵庫県立神戸商科大)卒。54年上京して新劇活動、テレビのシナリオライターのかたわら民俗学者宮本常一氏に師事。61年から映像による民族文化の記録作業をはじめ、76年民族文化映像研究所を設立。以来同研究所の所長。東京都町田市在住。
主な記録映画に、『イヨマンテ―熊おくり―』『椿山―焼畑に生きる―』『越後奥三面―山に生かされた日々―』。主な著書に『ほんとうの自分を求めて』『樹木風土記』『子育ての民俗をたづねて』『忘れられた日本の文化』

「基層文化」とは、「自然に依拠した人間の精神文化である」と民族文化映像研究所の所長・姫田忠義は語る。
 民族文化映像研究所(以下略称・民映研)は、1969年以来、半世紀にわたって日本全国にある「基層文化」を映像で記録・研究してきた民間の研究所である。これまでに、119本の映画と150本以上のビデオ作品が生まれている。日本各地での映像記録にとどまらず、フランスやスペインなど、諸外国へも赴き記録を続けてきた。海外では姫田監督は、映像人類学者としても評価が高い。
 兵庫県の神戸で生まれ育ち、16歳のときに終戦を迎えた。戦後のどさくさの中、10代の後半から、神戸の港で荷役などをしては、貯めたお小遣いで、旅をしてきた。
 26歳の時に上京。このころ、民俗学者の宮本常一氏と出会い、民俗学の勉強を始めた。テレビの仕事などをしながら、日本各地へ旅をし続けてきた。
 20代の後半に、伊豆諸島の青ヶ島に行った時のことである。
 「島の女性がお産をする時にね、家のはずれの林の中に作られている産小屋で、一人で籠ってお産をするんです。そのために家族は、火と水と食べ物を用意してやり、そしてお産をする女性は、自分で煮炊きをし出産をしたんです。民俗学ではそれを別火などと呼んだりするんだけど、青ヶ島では『タビ(他火)をする』と言うんです」
 新しい生命を生むその行為を一人で行う、それを「タビ」と言い、旅行の「旅」しか知らなかった姫田監督は、その言葉に秘められた人間の内面の世界のすざまじさと大事さを、青ヶ島の人から教えられた。 
 5年前に新宿にあった事務所を川崎市麻生区岡上に移した。小田急線の電車に乗って鶴川駅付近を通ると、真光寺川沿いに水色のマンションが目に飛び込んでくる。このマンションの一室に、現在の民映研の事務所がある。多摩丘陵の地に根をおろし、日本全国を映像で記録し続けてきた姫田監督に、「多摩」という地域が一体どういう地域であるのかを伺った。
 「今日、地域が大事だとか、地域主義とかいろいろ言われています。日本列島3千キロの長い列島の中で、そこには亜熱帯から亜寒帯までの、ものすごい多彩な自然条件と生活条件があります。しかし、それを無視し、ひっくるめて一言で言おうとしてきた足取りの歴史がありますね。いま多摩丘陵全体が、丘陵地帯のありようを特に意識されることなしに都市化されてきています。これは規模が小さいともいえるが、絶えず単純な方向へとものを考えようとする傾向にあると思います。しかし実際の生活というのはそんなものでは決してない。そういう時にどこに本当に思いを合わせるかといったら、例えば多摩丘陵の農家の人たちが体で受け継いでいる何か深いもの。その中には自然との対応関係というのが必ずありますから。その人たちから学び、勉強する必要があります。また、その目が必要ですね。そのように自分の心が向いていく視線が必要なんです」
 「それを私は、『こころざし』と言っているんです。『こころがさす』という日本語だと思います。光が射すというのと同じで、言い換えれば、『心が方向性を持つ』ということだと思いますね。方向性を持つことしか物事は生まれてきません。大雑把な言い方ですが、『たま(多摩)』ってどういうところかと言ったらね、『光が射すような場所』のことを言っていると思いますよ。それはとても乱暴な話を言っているのかもしれない。だけど感じ取るということ。なぜ私が『光』かと言うと、古代日本の国家の中心地である奈良・京都のほうから渡来系の人たちがいち早く関東のほうへ入ってきた。そういう時にどんな場所に住んだのかといったら、簡単に言うと日陰に暮らそうとしたんじゃないんです、日当たりの良いところですよ。そして多摩川の向こう側に古代の武蔵国の国府ができるわけです、府中ですね。府中はどんな場所であったでしょうか。第一そこに集まる人間の食べ物は、誰が供給したんでしょうか。私は、やはり川と丘陵地帯だと思います。この多摩という地域、多摩丘陵と多摩川、多摩川が発生する山地と、多摩川が流れ出る海。そういうものをにらんだ地域の自然条件を考え直していくという必要がある時代だと思いますね」
 最後に、姫田監督は、われわれにこう語る。
 「自然は自然として存在している。人間を存在させるために自然があるんじゃない。人間はその自然に寄り添って、生かされてきた存在だと思います」
 いまなお姫田監督は、記録の旅を続けている。

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アチックフォーラム(映画上映と話し合いの会)
民族文化映像研究所では、記録映画を作る作業のほかに、その作品群を手がかりにアチックフォーラム(映画上映と話し合いの会)を定期的に行っています。参加者同士が語り合い、何かを生み出そうとする場です。1981年からこの上映会を始めて、今年で26年目に入ります。現在、この場を活用して、多摩丘陵を考える場が生まれています。
 第2・第4土曜日の午後2時から、事務所内で上映会を行っております。この上映会に関するご質問などは、お気軽に下記へお問い合わせください。上映作品のラインナップなど、民映研に関する情報は、ホームページでもご覧になれます。
民族文化映像研究所 事務局
住所:神奈川県川崎市麻生区岡上85-1 スターレンテル1-103
TEL:044-986-6461 FAX:044-986-6462
E-mail:minneiken@dream.com
公式ホームページ www31.ocn.ne.jp/~minneiken
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