こいつ、よく見かける。どこかの家で飼われているのか、ノラなのか、どこで生まれてどんな名前で呼ばれているのか。こいつの事情は知らないが、百合ケ丘駅の北の丘をウロウロしていることは確かである。黒い体に白の線、どんぐりまなこの黄色い目。近づくとドキッと耳を立てて振り返り、襲われる気配がないとプイと余所を向いてテクテク歩き出す。大胆かつ繊細なところがいかにも猫らしい。
この日は何やら獲物を狙っていたらしく、ジッと腰を屈めて、ピクリともせず一点を見つめていた。足音に気づいてこちらに振り向き、暫く睨みつけると、また獲物の方へ向き直る。どうやらその間に獲物はどこかへ去ったらしく、こいつも緊張を解いてヒョイヒョイ徘徊し始めてしまった。
いろいろな昆虫や動物、とりわけ猫を見ているとどうしても注目してしまうのはなぜなんだろう? 古今東西、伝説や神話、小説でも演劇でも写真でも、猫は最も多く登場するキャラクターの一つなんだ。萩原朔太郎の『猫町』という小説では、主人公が現世と次元を異にした、不思議で恐ろしい猫の町へ行ってしまう。猫というのはどうも別世界へ通じる神秘的な性質があるのだろうか?
道端でふと猫に出くわしたら、それはひょっとして物語の始まりなのかもしれない。